7月のある日、クラブこけしにお中元を届けにきたこけし娘がいた。
名は“サクラ”と言い、桜の胴模様を持つ遠刈田出身の娘で、
クラブこけしオーナーの愛人が経営するこけしのモデル事務所に所属している。
彼女は届け物と兼ねて、初顔見せの挨拶もしてくるよう愛人から言付かっていた。
「こんにちは、お中元で〜す!もっふんママとゆさこさんはいらっしゃいますか?」
呼びかけに答え二人が現れた。
「あらあら、ご丁寧にどうもふ。ありがたくいただくもふ。」
「ウチの社長がよろしく伝えてくれと言っておりました。」
「ところで何で私まで声がかかるのかしら?」ゆさこは不思議に思いサクラに聞く。
「だってゆさこさんはクラブこけしの創立者ではないですか。
もっふんママさんもさることながら、ゆさこさんに挨拶しないわけには行きません!」
「なんて礼儀正しい出来た娘!自分でも忘れていたほどなのに!」
感心するゆさこの横で、もっふんママがさくらの胴模様に見入っている。
「綺麗な桜もふね。ちょっと花弁が長めで秋桜(コスモス)にも見えるもふね。」
「知っていますか?コスモスを秋桜と読んだのは山口百恵の歌が最初で、
さだまさしがそう当て字したから、そうなっちゃったんですよ!」
「なんて気の利いた会話もできる娘!利発さがほとばしっているわね!」
サクラの出自も影響するのか、彼女の物腰に二人とも感心しきりである。
「あら、お中元はメロンね。折角だからサクラちゃんも一緒にいただくもふ。」
「何だかすいません。じゃあ私、お店の皆さんの分切り分けてきますね!」
そう言いサクラはクラブこけしにいた娘達皆にメロンを切り分けた。
と、そこに出先から戻ってきたクラブこけしオーナーが現れる。
「おっ!メロンであるな!どれどれ、私もご相伴にあずかろうかな!」
それを聞いたサクラが「あっ!」という顔をして青ざめている。
どうやらオーナーを勘定に入れ忘れていたらしい。
ゆさことママは「完全にサクラだ!」「寅さんだ!」と関心しきりであったという。