野沢温泉を満喫した翌日、肘折こけし一行は長野市観光を楽しんでいた。
善光寺参拝の途中、宿坊通りではクラ子のテンションが上がっていた。
善光寺1
イクさん、キクちゃん見てご覧なさい!宿坊が凛と軒を連ねてるのよ!
私、宿坊体験ってしてみたいのよ!若い女性に今ブームなんだから!」
「クラ子さんて『若い女性にブーム』とか好きよね。もうそんな年じゃないのに。」
「失礼ねイクさん。年じゃないの、心のあり方の問題なのよ。ねえキクちゃん。」
「でもここって泊まってもお肉とか出ないんですよね?私は遠慮かな。」
「何なのよもう。そんな二人こそ宿坊で心身を清める必要がありそうね。
若くてシュッとした僧侶さんの話をきいて、精進料理でデトックスするのよ!」
「聞きましたイクさん?本音が出ちゃいましたね。」
「ええキクちゃん。若僧侶だの美容だの、クラ子さんこそ煩悩が溢れているわね。」
その後もクラ子は宿坊体験への憧れを語るものの、二人は全く取り合わない。
その時一行の横を走り抜けていく一台の高級外国車をみてキクが言う。
「なんだか今の運転手、坊主っぽい感じでしたね。」
その言葉を聞きイクさんもはっと目を見張る。
「キクちゃん!私、大事な観点を忘れてた!坊主に求めるのは清貧さじゃないわ!」
「そういえば数年前に善光寺の貫主のセクハラだの高級スポーツカーだの話題でしたね。」
「それはそれでいいわよ!玉の輿に乗れるならね!最近の若い女性も考えたものね。
なるほど、宿坊体験で若僧侶を青田買いしようって魂胆ね!」
「っていうことは、きっと高くて良いお肉も食べ放題ですよね?
さすがに今どきは坊主も精進料理ばっか食べてるわけじゃないですよね!」
「きっとそうよキクちゃん!ねえクラ子さん、宿坊に行くわよ!」
「ちょっと二人共!考えが歪みすぎよ!恥ずかしくて逆に宿坊に連れて行けないわ。」
クラ子は宿坊体験希望を取り下げ、熱くなった二人を引きずり善光寺参拝のみを行った。
善光寺2
冷静さを取り戻した一行だが、クラ子は荘厳な善光寺を眺めながら、
自分の思いに果たして曇りはなかったのか自問するのであった。
つづく
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善光寺では『お戒壇めぐり』といって本堂地下の暗闇を歩くという体験ができます。
手探りで完全な闇の中を歩くのですが、これがなかなかに恐ろしく、
子供が泣き叫ぶ様(声だけですが)など、トラウマレベルではないかと思われます。
機会がったらお試しください。おすすめです。