春のある日、クラブこけしの歌謡曲担当“のど自慢”と“コーラス”(店外125他)は、
浅草近辺の隅田川沿いで滝廉太郎の『花』を高らかに歌い上げていた。
隅田川にて
「♪は~るの~(ワワ) うらぁらの~(ワワ) すぅみぃだぁがわ~(ワワワ)♪」
桜の頃合いも丁度良く、背景にはスカイツリーも堂々とそびえ立つという、
絶好のシチュエーションながらも、混雑してないという稀に見る状況であった。
一曲歌ったところで、のど自慢は感謝の意をクラブこけしオーナーに伝えた。
「オーナーさん、この度は最高のステージのご手配、誠に感謝いたしやす。
こんな場所で『花』を歌い上げるのが、アタイやコーラスちゃんの夢でござんした!」
「喜んでもらえれば何より、だが・・もう少し声を小さくお願いできるかな?」
「はて、なぜそのような遠慮が必要なのでしょうか?」
「いや、その、人間界には色々事情があってだね、この状況もその恩恵というか・・」
何ともバツの悪そうなオーナーである。
「ははあ、アタイにはわかりましたよ。例の‘新型コロナ’ってやつですね。」
「私も知ってるわのど自慢ちゃん。みんなステイホームとかいってるやつね。」
「つまりオーナーさんは、そんなムードの中ノコノコ花見にやってきたことに、
後ろめたさががあると、そういうわけでございやすね。」
「ま、まあそんなとこなのだよ。だからもう少し頭を低くしてだね・・・」
「わかりましたオーナーさま。こののど自慢ひと肌ぬぎやしょう!
そのコロナとやらに苦しむ人間界にエールを贈ろうじゃありませんか。」
「エールとは?一体何を。」
「自作の応援歌などいかがでしょう。コロナということなら・・・そう!
365歩のマーチならぬ、『567歩のマーチ』ってのは!ねえコーラスちゃん!」
「のど自慢ちゃんポジティブぅ!じゃあ私は3,3,7拍子ならぬ5,6,7拍子で、
合いの手を入れちゃおうかしら!」
「待った待った!気持ちは有り難いが、それは何だかアウトな気がするのだよ。」
そう言い二人のこけし娘を連れそそくさとその場を移動したオーナーであった。
つづく
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そんな時期のせいもあり、思わずなかなかの写真が撮れたと思います。
時はちょうど「ゆるみが出た」とか言われていた時期、まんまとですね。
きっと例年ならもっと賑やかな場所だったんでしょう。
災禍の収束の兆しも出てきた今日この頃、早くストレス発散したいものです。