少し前の事、クラブこけしに採用されたこけし娘がいた。
目力があり古色も帯び、ある種オーラはあるが、いかんせん無口な娘である。
一応自己紹介もあったが、その時の彼女の挨拶は「チス、ンゴッス、シャス。」であった。
ゴニョゴニョした小声で、何と言ったのか皆よくわからなかったが恐らく、
「こんにちは、ンゴです。よろしくお願いします。」だろうと判断した。
“ンゴ”という変わった名のシャイな娘が採用されたものだと皆思っていた。
そんなある日、店に居候中の重鎮“サク子”(店外23他)が小旅行から帰ってきた折、
店を一眺めして驚愕の声を上げた。「デ・・・デンゴちゃん?!」
デンゴとサク子
「ネサン。サシブリッス。」(姐さん。お久しぶりです。)
「相変わらずのシャイな喋り方ね・・・。でもここで会えるなんてビックリよ!?」
「タシモマタエテレシッス。ネサンオッテキタッス。」(私もまた会えて嬉しいです。姐さんを追ってきました。)
“ンゴ”ではなく"デンゴ"と聞き、大層な家柄の娘である事に、皆やっと思い至る。
サク子と旧知であることにも納得しつつ、二人のやりとりを聞いた。
「追って来たって、コミュ障・・失礼、奥手なあなたがよくまあここまで?」
「ナナネン…」
「え?7年?」
「オーナーノサイフノヒモ、カタクテ、ナナネンッス。」(オーナー財布の紐が固くて7年かかったのです)
「あなたの身請けはにオーナーもさぞ気張ったでしょうけど、どう納得させたの?」
「メ、アワセツヅケタッス。クルタビ。」(オーナーが店に来る度、目を合わせ続けました。)
「何と迂遠な・・・でもデンゴちゃんらしいわ。ともあれ、またよろしくね。」
「シャス、ネサン!マタエテレシッス!」
目力と忍耐でオーナーを納得させたデンゴの力量に店の一同も称賛を送った。
そんな目力を、デンゴは時折お菓子等を食べている者にジッと向けてきたりもする。
見られた者は「なんかズルい!」と思いつつも彼女にお菓子を分ざるを得ないが、
「シャス」と嬉しそうに言われると憎めない、無口だが愛されキャラのデンゴである。
なおデンゴの見受けの出費により、このときオーナーはまだ寝込んでいたという。
つづく
デンゴ
○渾名:デンゴ(弥治郎系)
○工人:
佐藤伝伍
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おちょぼ口で無口なデンゴに、某店の隅からず見られていました。
そして7年の月日が流れ、とうとう腹を決めての入手となりました。
中々に値が張った理由は作の古さもありますが、鈴木鼓堂という
蒐集家の図録に掲載の作という理由もあるようです。(補足:ちょっと一息23
蔦作蔵の影響というどんぐり眼、私のツボでした。