7月初旬、こけし娘の“笠子”(121話)と“朝顔”(133話)は早朝から行動していた。
二人が訪れたのは東京下町の風物詩、入谷の朝顔市。まだ朝の6時半である。
早朝にも関わらず、入谷鬼子母神前はすでに朝顔の屋台と人々で賑わっていた。
それまで眠そうにしていた笠子だが、その光景にぱっちりと目を覚ました。
朝顔市
「朝顔ちゃん!まさか本当にこの時間からこんな混んでいるとは思わなかったよ!」
「信じていなかったのですか?朝6時にはもう混むと何度も言ったのに。」
「てっきり朝顔ちゃんが珍しく冗談を言ったと思ったのよ。」
「私はそういう冗談は言いません。」
笠子も真面目な方だが、朝顔は輪をかけて真面目で通っている、そんな二人である。
「ところで朝顔ちゃん、『ダンジュウロウ』て店の人が言ってるけど何かしら?」
「説明いたしましょう。朝顔で言う『団十郎』とは小豆色をした人気の朝顔です。
江戸時代、二代目市川團十郎が歌舞伎の演目で用いた衣装の色が由来です。」
「へ〜。さすが朝顔ちゃん、帯の模様にしているだけのことはあるわね。
ところで朝顔ちゃんって、いつも真面目だけど冗談とか言うことってあるの?」
「失礼ですね。私だって人々の笑いのツボくらい抑えていますよ。」
「じゃあ私が笑うようなこと言ってみてよ。出来たらかき氷おごってあげる。」
「いいですよ。じゃあ早起きした事だし、え〜、早起きは三文の徳などと申しますが、
さてここは奈良は三条横町の豆腐屋の六兵衛さん、今朝も早くから豆腐作りに・・・」
「待った待った。朝顔ちゃん、まさか落語始めたんじゃないでしょうね?」
「そうですよ。面白いから笠子ちゃんもきっと笑いますよ。」
「・・・プッ、ウププッふふ!やっぱり朝顔ちゃんは面白いわ。」
「?、まだ笑う所じゃないですよ?でも私の勝ちですね。」
想定の斜め上を行く発想により、本人の意図とは別の次元で笑いをとる朝顔。
そんな彼女を笠子ほか多くが愛してているのであった。
つづく
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こけしの胴模様ゆかりの花シリーズでした。(店外編5253963109125
噂には聞くも早朝という時間帯に出渋っていたイベント、入谷朝顔市。
気合を入れて行ってみると、噂どおり朝7時前から結構な活気です。
こんな早朝から下町の方々は『粋』だなあと、なんとも感じ入ってしまいました。
朝顔ちゃんの父、小野寺正徳工人(7/24逝去)のご冥福をお祈りいたします。