昨年秋、鎌倉の山中、落ち葉の中でシュウケン(8話)が呪文のようなものを唱えていた。
落ち葉
「オーラミン、タートラジン、オーラミン、タートラジン・・・」
クラブこけしオーナーの愛人のモデル事務所に古くから所属している彼女は、
声は小さいが気の優しい、可愛らしいこけし娘である。
そんなシュウケンを横で眺めているのはクラブこけしのミナオ(89話他)であった。
「何してるのシュウケンちゃん、オーラミンとかタートラジンって黄色の食用染料よね?」
「落ち葉に含まれるタンニンから黄色の色素を吸い上げる呪文よ。オーナーに聞いたの!」
シュウケンと言えばかつては黄鳴子を彷彿とさせるような黄色い胴の持ち主であったが、
時間と共にあれよと黄色は抜け、本人気にしていないかといえば少し嘘になるのであった。
なお食用染料の黄色は絵の具等の黄色に比べ色抜けしやすいのである。
「何だか黄色が薄れたせいで存在感まで薄れて、この写真も忘れられているような・・・って何でもないわ。
黄色の鮮やかなミナオちゃんに見てもらいながらの方が効果的な気がして。」
「そうなんだ・・・でもすごく怪しい感じになっているよ。黒魔術みたいな。」
「・・・オーラミン、タートラジン・・・黙って見てなさい、この絵の具の黄色女!」
「ええっ!?あのシュウケンちゃんが毒をはいた!?やっぱり良くない呪文だわ!」
「フハハハ!オーナーから聞いたこの呪文で我が黄色を完全復活させるのだ!!」
「このままではダークサイドに落ちてしまう!嘘よ、インチキオーナーの嘘呪文だから!」
「何だと!?あの野郎、この私に嘘を?許せん・・こうなったら呪いの呪文でア奴もろとも・・・」
シュウケンを葉から引きずり出し揺さぶるミナオ。程なく彼女は落ち着きを取り戻した。
「やだ、呪文の影響で心にも無いこと言ってたかしら。ほんと違うからね。気にしないでねミナオちゃん。」
「あ、うん、とりあえず戻ってよかっわ・・・。」
シュウケンが結構本心を口走っていたのではないかと少し思っているミナオであった。
つづく
=====================
ちょっと補足をしますと、こけしは子供用の玩具という本来の特性上、
口に入っても安全な食用染料を多くは用いていたようですが、
近年はお土産的要素から、発色の良い絵の具等も使われるようです。
シュウケン入手から早6年、抜けてしまった黄色に時間経過の感慨深さを感じます。
そして去年のこの写真、地味すぎたせいかとんと忘れ、遅れながらの紹介でした。