旅行から帰ってきた赤んぼ先生と書生のツタフミ(店外編69~ほか)を出迎えるこけし娘がいた。
一子と先生とツタフミ
「お帰りなさい先生。ご無事の帰国で何よりです。」
「一子(イチコ)さん、
ただいまでち。留守を守ってもらって悪かったでちね。」
一子と呼ばれた一見鳴子こけし風の顔立ち・胴模様の娘は、ツタフミに対し一瞬ニヤリとし、
軽く会釈をすると、先生の鞄を受け取り奥へと消えていった。
思いもよらぬ事態に呆気にとられ、無言でプルプルしていたツタフミが遂に口を開く。
「ちょっとちょっとー!先生!誰ですか?今の鳴子娘は誰ですか?」
「おっと、ツタフミには言ってなかったでちか?もう一人書生さんに住み込んでもらうでちよ。」
「何で鳴子娘の面倒を先生が?鳴子は層が厚いんだから鳴子の里に任せればいいじゃないですか!」
「ツタフミよ、人を見た目で判断してはいかんでち。彼女は南部娘でちよ!」
「ええっ、そうなの!?南部の?どう見ても鳴子娘じゃないですか?!」
「ツタフミには一子さんの面倒を先輩として色々見てやってほしいでち。私の友人の娘さんでち。
「くぅ、それで“さん”付けですか。私は呼び捨てなのに・・・、釈然としないわぁ。」
「ツタフミ先輩、そういうわけでよろしくお願いします!」
知らぬ間に側に戻った一子は、虚を突いてツタフミに挨拶しつつ、
南部こけし特有の緩い首を俄にクラっとさせた。
一子とツタフミ
「きゃぁぁ!ビックリした!本当に南部の娘なのね!っていうか先輩を揶揄うんじゃないわよ!」
「別に揶揄ってないですよ~ツタフミせんぱ~い。癖ですよ癖。」
「ツタフミよ、先輩として下の面倒を見るのも大事なことでち。今後は二人で切磋琢磨するでちよ!」
こうして二人になった赤んぼ先生の書生。少し挑戦的な一子にツタフミはしばしば礼節を説きつつ
先輩としての自覚が芽生えつつあるという。
つづく
一子
○渾名:一子(南部系)
○工人:佐藤一夫
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鳴子で修行をし、花巻へと移った佐藤末吉を父にもつ一夫工人の作。
小寸ながら繊細な筆使いと丁寧な作りが気に入ってしまいました。
鳴子の描彩なのに南部の腹帯と首のキナキナ感は正にハイブリットです。
鳴子から南部へ、こけしの伝播の面白さを感じます。