年も明け数日した頃、クラブこけしのゆさこは重い腰を上げ初詣に行きお店に戻ってきたところ、
店の外に見知らぬこけしがぬっと立っているのを見た。
それはやけに年季の入った色合いをした、スラリと長身のこけしであった。
扉をノックするも店から誰も出てこないので、どうやら立ち往生している様である。
その年季と出で立ちに気圧されたゆさこは、足を止め少し様子を見守っていたのだが、
突如そのこけしはくるりとふり返り、気付いていたかのようにゆさこをジッと見つめ返してきた。
大層驚き、心拍数の上がるゆさこ。そしてそのこけしは唐突にゆさこに言う。
「撫でる?」
ビリケンさんとゆさこ
「・・・!?ナデル?・・・。」思いも寄らぬ申し出に、呆け顔でドキドキするゆさこ。意味がわからない。
「そう。撫でとく?お腹のあたりなんか、ほら。」ニッコリとし、お腹を向けてくる謎のこけし。
「あ・・・あなたのお腹を?私が撫でるのですか・・・?な・・・何故に?」
「あら、
撫でないの?別に無理にとは言わないけど。」
そう言われると何だか悔しい単純なゆさこ。「
撫でます!こうなったらもう、撫でさせて下さい!」
そう言い謎のこけしのお腹を恐る恐る
撫でるのである。するとどうしたことか、
正月から餅やら何やら食べすぎてもたれていたゆさこの胃が、みるみるスッキリしていくのである。
「わお!何これ、凄いわ!奇跡が起きよったわ!」たまげるゆさこであった。
「ウフフ、良かったわね。しかし、呼んでるのにお店から誰も出てこないのよねぇ。」
そう言うやドタドタと足音がし、扉から出てきたのは、もっふんママを先頭にクラブこけしの娘達であった。
「ああ、ビリケンさん、待たせて申し訳ないもふ。皆を呼び集めてたら手間取っちゃったもふよ。」
「良いんですよママ。明けましておめでとうございます。」
「こちらこそもふ。さあ皆、ビリケンさんが来て下さったわよ!あやかりたい部分を
撫でさせてもらうもふ!」
店の娘達は各自の思う所ビリケンさんを
撫で、皆歓喜の声を上げていた。
そう言えばそんなイベントがあるとママが前に言っていたのを今になって思い出すゆさこである。
その後、ビリケンさんは酒と肴で丁重にもてなされ、皆で新年を祝うのであった。
皆になでられ年季の入っていく身を顧みない人徳と、不思議な力を兼ね備えたビリケンさんは、
新年会も終わると、「また呼んでね!」と気さくに言い帰って行くのでった。
実はクラブこけしオーナーの愛人のモデル事務所に所属のビリケンさんは、
この時期、めでたいイベント要員として、各所で引っ張りだこなのであった。
つづく
ビリケンさん
○渾名:ビリケンさん(南部系)
○工人:安保一郎
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近畿地方の神様?“ビリケンさん”を良くは知らないのですが、足を撫でると良いようですね。
このこけしを見ると、顔立ちがビリケンさんだな~と思ってしまいます。
こけし辞典では、“
玩具こけしであり伝統は無い”と切り捨てられていますが、
いやいや、今や年季も入っておりなかなかのオーラでございます。
ルーツは無いのかもしれませんが、盛岡の森にいる妖精の様なこけしです。
ちなみに裏を見ると・・・
ビリケンさん裏
この梅花の押印・・・、これって米浪コレクションだったのでは?
この印があろうが無かろうが良いのですが、おお!って気になりますね。