クラブこけしに貼りだしてある『フロアレディ募集』の貼り紙を見ている、スラリとのっぽなこけし娘がいた。
「ごめんくださーい。面接に来ました“テイ子”と申します。どなたかいらっしゃいませんか。」
店は皆出払っているのか、反応が返ってこない。そんな折、急な地震の揺れが襲ってきた。
「ひゃあぁ、震度3くらいかしら。最近多いわぁ。ああ、ダメだわ、バランスが・・・!」
そう言いながらテイ子はその場に倒れてしまう。のっぽなテイ子は少し運動神経が鈍い。
「イタタ・・・、今の揺れだともう一波来そうね。このまま少し様子を見ようかしら。」
経験上、地震に敏感なテイ子は横たわったまま暫くじっとしていた。
そこに鼻歌交じりで散歩から帰ってきたのは、地震にも気付かなかった鈍感な“ゆさこ”である。
このところ都会慣れしてきた為か、長渕剛の『とんぼ』を歌いながらやってきた。
テイ子とゆさこ
「♪あ~あ~幸せの、とんぼよォォ~♪っと、おや、こんなところにタイミング良くトンボが・・・って、ええっ!!
こけしが倒れとる!ちょっとあなた!大丈夫!具合でも悪いの!?」
横たわっていたテイ子の胴模様の一部をトンボと見間違えていたらしい。
「あら、ごめんなさい。地震をやり過ごそうと思って、今起きるわね。」
そう言って起きあがるテイ子の背の高さに、ゆさこはまだドキドキしている。
「細っ!背でっか!まあ、でも病人じゃなくて良かったわ。かわいい胴模様ね。」
「うふふ、ありがとう。トンボに見えてもらえて嬉しいわ。ところで面接に来たのだけれど・・・。」
「うぅーん、確か今皆出払っているような・・・。どうしよう、私じゃ無理だし・・・。」
こうして2人が困った感を出していると、「ちょっと待ったぁ~!」と声が響いた。
一部始終をまたしても物陰で見ていたのはクラブこけしオーナーの愛人で、
モデル事務所の女社長、その人であった。
「あなたのそのスタイルとお洒落なトンボ、モデル向きよ。うちにいらっしゃい!!」
そうして社長に熱く説得されたテイ子はモデル事務所への採用が決まってしまった。
女社長とテイ子が去っていく後ろ姿を、出先から戻ってきたもっふんママが遠目に見ながらゆさこに聞く。
「もふ?あの娘、面接希望だったんじゃないもふか?」
「うん。でも愛人さんに持って行かれちゃった。胴のトンボが可愛かったわぁ。」
「胴のトンボって、もふっ!良家の娘さんじゃない!幸せのトンボを取られたわ。愛人も抜け目ないもふね。」
ちょくちょく有望株を愛人社長に横取りされることがあり、
(どこかに隠しカメラでも設置してるもふか?)
と、その出現のタイミングの良さを訝しがっているもっふんママであった。
つづく
テイ子
○渾名:テイ子(作並系)
○工人:平賀貞蔵
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胴模様の菊が“カニ”ではなく“トンボ”に形容される平賀貞蔵工人のこけし、
確かに葉っぱの開き方がトンボの翅の様です。
地震での転倒による大惨事の原因No1こけしですが、
手にしてみると振り回したくなるような持ち心地の良さがあり、
こけしが玩具だった頃の子供の気持ちを、今にしても感じることができます。