クラブこけしのゆさこは、その日朝から胸騒ぎがしていた。
そんな中、「ゆさこちゃん、お客さんが来ているもふよ。」と、もっふんママから呼びが入った。
不安を覚えながら呼ばれた先に行くと、そこにいたのはゆさこに似た面持ちのこけし娘であった。
「わーお、ゆさこ、久しぶりね。」
「うぐっ・・・!お姉ちゃん・・・!!。」
そこにいたのは“ゆさ姉(ねえ)”である。姉としてかつて、ゆさこの面倒をみていたと言えば聞こえはいいが、
姉の立場を利用したそのぐうたらぶりは、ゆさこにとっては悪質であり、あまり良い思い出が無い。
「あら、ゆさこちゃんのお姉さんだったの?どうりで何となく似ているもふ。」
「そうなんですよう。ほんとゆさこはぐうたらで手のかかる妹で、迷惑かけてないか心配ですよ。」
ゆさ姉とゆさこ
もっふんママと歓談するゆさ姉にゆさこがビクビクと尋ねる。
「と・・・ところでお姉ちゃん、何しに来たの?放浪の旅に出るとかいって、清々、じゃない心配してたのよ。」
「何しにって、せっかく久しぶりに会ったのに冷たい妹ね。というわけで何日か泊めてよ!」
「えええっ!!・・・そんな急に・・・くうぅ・・・はい・・・。」ゆさ姉には逆らえないゆさこである。
それから数日、ゆさ姉はゆさこの部屋で日がなぐうたらと過ごしていた。
「ゆさこ、ちょっと午後ティー買ってきなさいよ。しかしこのクウネルって癒される雑誌ねぇ。」
「ああっ!お姉ちゃん、そんなポテチ食った手でべたべたと・・・」
「うるさいわね。あんたそういう所がまだ小さいのよ。」
こんな感じにゆさ姉のわがままを聞きながら、ゆさこはストレスの溜まる日々を送っていた。
しかしそんな中、ゆさ姉は時折クラブこけしのお店を覗いては何か観察している様であったが、
普段のぐうたらぶりにその行動を気にしている者はいなかった。
そして、数日そんな日が過ぎた後、ゆさ姉は「うん、いいお店だわ。」と呟くのだった。
実はゆさ姉は、大ママ(11話)やキイチ姉さん(26話)も所属する、こけし業界団体の秘密諜報員であり、
コードネーム“SAIKICHI”と言えば泣く子も黙る謎と噂の存在である。
団体の裏活動を担っているその正体は、会長のイクさん(50話)ほか数名しか知るものはいない。
今回はこけし達の活動をミシュランの様に密かに調査・評価すると言う任務に就いているのであった。
「ゆさこ、長々世話にねったわね。私そろそろ帰るわ。あんた、しっかり働きなさいよ!」
「はい、お姉ちゃん!(心の声:お前が言うな)」
「またそのうち来るわね。じゃあね!」
「またね、お姉ちゃん!(2度と来ないで)」
そう言って去っていくゆさ姉が大変満足そうであったのは、成長したゆさこを見たせいかもしれない。
そんな姉の気は知らず、去っていく姉の姿が消えると、
「これで自由だ―!!」とゆさこは叫んでいた。
つづく
ゆさ姉
○渾名:ゆさ姉(鳴子系)
○工人:岡崎才吉
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このこけしを見た時、「でっかいゆさこがおる!」と思ったものでした。
ゆさこの作者遊佐妙子工人の義理の父に当たるのが岡崎才吉工人です。
才吉工人64歳(昭和39年)の時の作で、このころの表情の乙女チックさは
鳴子こけし界でも異彩を放っており、ゆさこの源流を突き止めた気分でした。
余談ですが、高村薫の『リヴィエラを撃て』を読み、
コードネームって面白いなあと思いました。