クラブこけしのゆさこが休日にゴロゴロしていると、来客とのことで呼び出された。
やってきたのは、“もったいない”が口癖の大沼のおばさん(第32話)と、桜井のおばさんであった。
桜井のおばさんとは、大沼のおばさんの親戚筋にあたり、
ゆさこが鳴子にいた時分にはよくお世話になっていた一人である。
大沼のおばさんの東京観光の話を聞き自分も行きたくなり、再び連れだって上京してきたのである。
桜井のおばさんとゆさこ
「ゆさこちゃん、休み中なのに何だか悪いわね。大沼さんの話聞いてたら、私も東京行きたくなっちゃって。
はい、お土産のぶどうよ。甘く無いかもしれないから何だか悪いわ。」
「桜井さんと二人じゃ食べきれなくてもったいないし、お店の皆で食べてね。」
「ありがとう・・・・桜井のおばさん
、大沼のおばさん・・・。」
初めは再会を懐かしんでいたゆさこであるが、徐々にこのコンビの厄介さを思い出しつつあった。
この二人の物腰は、一歩引いている様でいて、その実断り辛い強制力の様なものがあるのである。
「それでね、ゆさこちゃん。桜井さんと私を観光案内してほしいのよ。
せっかくゆさこちゃん東京にいるんだし、そうしないともったいない気がして。」
「何だか悪いわねゆさこちゃん。休み中だったんでしょ?ほんと何だか悪いわぁ。」
ゆさこは思う。(私は何も言っていないのに、この“もったいない”と“何だか悪い”によって、
既に私の観光案内役が決定している!今日はクウネル買ってきて、ゴロゴロ読んでいたかったのに・・・)
「あの・・・私、今日は雑誌を買いに行って・・・」
「あら、丁度良いじゃない。観光ついでに用を済ませば一石二丁でもったいなくないわ!」
「ほんとねぇ、突然で何だか悪い気がしたけど、良かったわ。悪いわねぇ。」
「う、う・・・、準備してきます・・・。」
観光気分満々でウキウキしているおばさん二人を見て、観念したゆさこであった。
その後も桜井のおばさんは、“何だか悪いわ”を免罪符のように、様々なわがままを言ってくるが、
本人にいたって悪意はないので、頑張ってリクエストに答えるゆさこであった。
案内の最後に勢いで立ち寄った、クラブこけしのオーナーの愛人が経営するモデル事務所では、
大沼のおばさんは半ば強引に事務所に居座ることにもなったのである。
「ゆさこちゃん、今日は何だか悪かったわね。おかげで、もう少し東京にいられるわ。」
「何言ってるのよ。桜井さんの美貌はモデルにでも生かさなきゃもったいないもの。ねえゆさこちゃん。」
「う・・・うん、そうだね。じゃあ、私は今日はこの辺で・・・」
楽しそうに話している二人に、再び呼び止められぬことを願いながら、
その場をそろーりそろりと後にするゆさこであった。
つづく
桜井のおばさん
○渾名:桜井のおばさん(鳴子系)
○工人:桜井昭二
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桜井昭二工人の岩蔵型です。
胴と頭のバランスが良く、すらりとした印象です。
岩蔵型や、その系列のこけしの表情は、若々しいというイメージよりも、
落ち着きと素朴さを個人的には感じます。