クラブこけしのオーナーと、オーナーの愛人であるモデル事務所の社長が、
それぞれに新人発掘のため、連れだってとあるこけし屋を訪れていた。
こけし娘達が居並ぶ中、2寸程の小さな体ながらも一際オーラを放っている者がいた。
そのこけし娘は“トシオ”と言い、彼女は自分の前で立ち止まる2人を見比べていた。
まずオーナーを見て首を傾げた後、次に愛人の方を見て「へけけっ」と笑いかけてきた。
「あら!この娘ったら、私に笑いかけて可愛らしいこと!モデル事務所で採用決定よ!」
「でも『
へけけっ』て、おぼっちゃまくん以来でしょ。それに笑顔がなんか悪そうな感じが・・・。」
「うるさいわね。もう決めたのよ。」愛人が言うと、トシオが挨拶をしてきた。
「ありがとうございます。御苦労かけますが、お願いします。」そう言い、再びへけけと笑った。
トシオと守り神
帰りはクラブこけしに寄り、皆で一服する中、トシオにざわつくものを感じるオーナーは、
店に長逗留していた守り神(第30話)に同席してもらい、
トシオをこっそり見てもらうのだった
守り神は、なんとこけしの本性を見抜く神通力の様なものを持っているのである。
(守り神様、あのトシオという娘、どうですか?なんかざわつくのですが。)
(そうですねえ、大体分かりました。後は
私が話しましょう。)そう言い、守り神はトシオに向き直った。
「トシオちゃん。あなた、社長さんに自分のこと
ちゃんと説明したの?」
「はい!御苦労かけますが、と。」
「そうですか。じゃあ、社長さんもご了解という事で良いのですね?」
遣り取りを怪訝に思った愛人社長が聞いてきた。
「あの・・・、どういうことでしょう?守り神さん。」
「このトシオちゃんと言うのは、持ち主に何かと苦労事を背負わせる不思議な力を持ています。
しかし、誰でも良い訳ではなく、その苦労を糧に成長できる人の所にしか来ない娘なのです。」
トシオがへけけっと笑って付け加えた。
「私は社長を見込んで付いてきました!苦労はしますが、さらに立派で美しい女性になれますよ!」
愛人社長はしばし目を瞑り考えていたが、顔を上げトシオに言った。
「私もトシオちゃんを見込んだことだし、腹をくくるわ。トシオちゃんも気にせずのびのびやって頂戴。」
そう言われ、嬉しくなったトシオがへけけっ笑った所にオーナーが訪ねた。
「トシオちゃん、最初に私を見て首をかしげたのはなんでかね。」
「あ・・・その、あなたは打たれ弱いタイプなので、ちょっと・・・荷が重いかと。」
ショックを受けたオーナーは守り神を見るが、「妥当でしょう・・・。」と返され、ひどくヘコむのであった。
その後愛人社長には、予言通り何かと苦労が増えたが、その経営力は確実に上がっているらしく、
そんな愛人に見限られぬよう、オーナーもがんばろうと空回りしているという。
つづく
トシオ
○渾名:トシオ(土湯系)
○工人:佐久間俊雄
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気難しかったらしい佐久間俊雄工人のエピソードを、お店で聞いたせいもあり、
工人の描くこけしの顔立ちは、ニッコリしていて可愛らしいのですが、
何だか悪だくみをしている様にも見えてしまいます。
このこけしはちょっと購入のお値段が高く、
グラム単価に換算すれば、我が家ではダントツのNo1です。
その高価さやサイズ感もあり、お守りの様な神聖ささえ感じるのですが、
その表情に、ご利益があるかどうかはなんともです。