久しぶりにクラブこけしに万年貼りだしてある、“フロアレディ募集”の貼り紙を見ているこけし娘がいた。
おかっぱ頭で、頬も赤く、まだあどけなさの残る、いかにも田舎娘といった体である。
胴は黄色地にひょろひょろと花の絵が描かれており、それら色味や表現の感じが、
なんとなく異国感を漂わせているため、彼女は『ベトナム』と呼ばれていた。
歴とした青森の出である彼女は上京し、その垢ぬけなさをにじませつつ、募集貼り紙を眺めていた。
(以降の方言は間違ってるかもですが、雰囲気だけ感じて下さい)
ベトナムとジスケ
その姿を店内から窓越しに見ていたのはジスケ(第24話)であった。
ジスケも相当な田舎娘であったが、自分よりも田舎くさい娘を見て興味をもち、
しかし、クラブこけしに所属しているという自負から、上から目線でベトナムに近づいてきた。
「にしゃ(お前)、採用希望か?どっから来たんだべ。」
「わ(私)、津軽の大鰐からだ。わ、ここでじぇんこ(お金)稼ぎてぇ。
田舎でばやばやしてても(ブラブラしていても)まいねーし(しかたないし)。」
「ププーッ、プスプスッ」っと、ベトナムのあまりの訛りに、自分を棚に上げ噴き出すジスケは、
相変わらず上から目線でベトナムに言い返す。
「ほんだけんちょも、にしゃ、服も顔も田舎者すぎだんべ。そんじゃあ、しゃああんめ。あきらめてくんちぇ。」
「したばって・・・どもなんねぇべか・・・?」
その後もジスケは同店でのキャラ被りを恐れてのことか、
“お前のような田舎者には無理だ”的な事をベトナムに諭している。
そんな2人のやりとりを陰で聞いていた一人は、クラブこけしのもっふんママであった。
「もふーぅ。やっぱ方言はいいわぁ。あの娘、採用しちゃおうかしら。」と思案し始めていた。
だが、もう一人陰で聞いていたのは、モデル事務所の女社長(クラブこけしのオーナー愛人)だった。
「気に入ったわ!あなた、私が雇うわよ。なかなかの原石だわ!」と言い姿を表した彼女は、
ベトナムの素朴さと、エキゾチックさの相まったルックスを褒め、モデル契約を申し出るのであった。
女社長に連れられていくベトナムは、去り際に、
「へばな(じゃあね)。」と言い残し、ジスケに向け勝ち誇った笑みをうかべるのであった。
なんだか悔しくて地団駄を踏んでいるジスケの後ろからもっふんママが現れた。
「もふぅ、あの娘取られちゃったわぁ。残念もふ。
しかし、ジスケちゃん。なんか偉そうだったわね。ちょっと精進が足りないもふよ。」
ママに言われ、自らの言動を恥じ入り、深く反省するジスケであった。
「ママ、許してくなんしょ。オラを見捨てねぇでくんちぇ。」
それを聞いて、再び方言にうっとりしているもっふんママであった。
つづく
ベトナム
○渾名:ベトナム(津軽系)
○工人:長谷川健三
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木に顔を描きました的な、あまりに様式化されてない感じの表情ですが、
それがまた様式なのでしょう。なんとも、おぼっこい表情をしています。
胴模様の菊の花が、物によっては異国の文字の様にひょろひょろとしている物もあり、
海外のお土産のようにも見える、不思議な泥臭さを感じます。