こけしによる活動をバックアップしている業界組織では、その内部でも定期的に会合が持たれ、
各担当者からの報告等をとりまとめ、必要に応じ、対策・対応を行っている。
こう書くと響きは良いが、その実態はこけしOB,OGの井戸端会議といった体のものである。(第11話参照)
この組織の現会長が、イクさんと呼ばれるこけしである。彼女はかつては大層な苦労人であったが、
その甲斐もあり、今や多くのこけし達から人望を集め、それは往年の宝塚スター涼風真世のごとく、
小柄な身ながらも会長という誉れある地位に就いているのであった。
その日は分科会として、クラブこけしの現況確認のため、担当の大ママ(第11話)と
何度か大ママの代理をしていたキイチ姉さん(第26話)が呼ばれ、3人で話していた。
イクさんと大ママキイチ姉さん
「クラブこけしは最近調子が良いみたいだけど、どんな感じかしら、大ママ。」
「みんな個性的だけど、バランスの良いお店よ。でも、その前にお茶菓子とかないのかしら。
大福とか食べながら会議がしたいわ。キイチ姉さん、なにかない?」
「そんな都合よく茶菓子が出てきやしませんよゥ。妾(わたし)ァドラえもんじゃないんでね。
でも、チョイっと羊羹なんかがあるといいねェ」
「ちょっとあんた達、何怠けたこと言ってるのよ。会議に集中しなさいよ。
そもそも私が若いころは甘いものなんて無かったからね。あの頃はよく・・・」
「イナゴを佃煮にして食べてたんでしょ。またその話?」
「妾もその話は聞き飽きましたよゥ。イクさん、さすがに時代が違いますわよゥ。」
「何言ってるのよ、あれ美味しいのよ!それに甘いものだけじゃなく、お金だって無かったんだから。
お店のお金を持ち逃げしては、何度叩かれたことか・・・。あんた達、苦労が足りないのよ!」
「それで良く今の地位にいるものね。」
「まったくですよゥ。」
「もういいわ、あんた達、わかったわ。今度イナゴの佃煮作ってくるから。絶対食べなさいよ!」
「なんでその話につながるのよ!イクさん、それは勘弁してほしいわ。」
「妾もそれだけはゴメンですよゥ。ちゃんと会議するから落ち着いて下さいよゥ。」
「くぅ・・・何か、私の想いが誰にも伝わってないわ。
そうだ、イナゴの佃煮をクラブこけしに持っていってあげてよ、大ママ。」
「ええっ!・・・・そうね。」
それはそれでみんなの反応がちょっと楽しみな気になった大ママであった。
そんなこんなではあるが、イクさんの苦労話の種類は豊富で、聞くものは皆何やら勇気づけられるのであり、
いずれにせよ、愛すべき人柄と経験を持った会長なのである。
イクさん
○渾名:イクさん(肘折系)
○工人:佐藤己之助
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周助型の始祖、佐藤周助工人の人柄や苦労、かつての肘折の厳しい風土等、
ちらほらと書籍等で知ることが出来ますが、
そんな父をもった己之助工人も、さぞや苦労されたことと勝手に察しております。
それを踏まえて見るこのこけしからは、箔がにじみ出てくるようです。
しかしながら、その中にも優しさを感じる秀逸なこけしだと思っています。