クラブこけしのオーナーが、とあるこけし屋をうろうろしていた。
スタッフのスカウト目的ではないが、こけし娘達を眺めることを満喫していた。
流し見をしていると、ふとシンプル目な、少し勝気な表情のこけし娘に目が止まった。
オーナー自身もその理由がすぐには分からない。
ナオコアップ
見つめられた娘は間が持たなくなり、とりあえずニコリと微笑み返した。
その笑顔を見たオーナーが心の中で驚く。
な・・・直子!!)
そして、娘を見つめるオーナーの目がだんだん遠くなっていく。
娘は怪訝に思い声をかける。
「ちょっと!何?キモいわ!あなた大丈夫?
オーナーは遠い目をしたままである。
『直子』とは、何を隠そうオーナーの初恋の人(小学生時代)である。
当時、会話をすれば笑顔で返してくれた直子に、その笑顔こそ相思相愛の証だと思いこんだオーナーは、
中学に上がると満を持して告白するのであるが、結果泣いて断られるのであった。
その後卒業まで同じクラスであるという、何とも気まずくも、今では甘酸っぱい思い出なのである。
「あの、ちょっと、いい加減大丈夫ですか?」
そう言いオーナーの頬をペチペチとはたくこけし娘である。
「あ、ああ・・・お嬢さんの笑顔と雰囲気で少しトリップしてしまったよ。
ところで君、うちで働いてみないかね。

そうしてクラブこけしの説明をするオーナーであった。
「そんなわけで、あなたの渾名は“ナオコ”でどうだろうか?」
「別に、今のところ決まったものがないので良いですけど、“ナオコ”ですか。なんだか生々しくないですか。
「うん?そうかの。君がまっすぐな良い娘だということだよ。」
「はあ、まあ、ではよろしくお願いします。」
そうしてナオコがクラブこけしのメンバーとなった。
たまに遠い目をしたオーナーと目が合うと、ナオコは
「オーナー、キモいんですけど。」
と突っ込むのであった。
つづく
ナオコ
○渾名:ナオコ(鳴子系)
○工人:河村守
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河村清太郎
型のこけしの目は、比較的つぶらなタイプが多いと思うのですが、
この守工人のものは、一重まぶたが長めに引かれ、眉もきりりとしており、
全体的に凛々しさを感じさせます。
今となっては曖昧になった思い出の中の人々の表情と、
これら単純化されたこけしの表情というのは、いい感じに重なるような気がします。