クラブこけしの料理担当「めし炊き」が塵出しをしていた。(「めし炊き」については第20話参照)
塵袋を抱え、お店の裏の集積所まで来たところ、そこに何かが倒れているのを見つける。
近寄って見ると、それはこけしの青年である。めし炊きは慌ててそれをゆすり起こすのであった。
「ちょっと!!あんた、大丈夫生きてるの?どうなの?ちょっと!!」
ほっぺたをびちびちするが、だらりとして反応がない。
そのこけし青年の顔は白眼をむき、もはや生気は感じられなかった。
行き倒れアップ
駄目か・・・。この白眼じゃもう無理よね。警察呼ばなきゃ。
めし炊きが立ちあがろうとしたとき、その青年が呻いた。
「食べ物・・・何か・・・」
「あら!生きてたの!行き倒れなのね!ちょっとまってなさい
お店に戻り、おにぎりとお茶を持ってきて、それを行き倒れに渡すと、彼はぽそぽそと食べ始めた。
(がっつくんじゃないのかい!)と少しイラッとするめし炊きである。
時間をかけておにぎりを食べ終わり、一息つくと行き倒れが言った。
「生き返りました・・・。どうもありがとうございます。」
「もう、びっくりしたわぁ。そもそも何でこんなことになってるのよ。」
そう聞かれ、行き倒れは自らが虚弱な事、そんな自分を変えようと日本一周の旅の途中である事、
しかし、お金が尽き空腹も極まっていた事を話すのであった。
「まあ、話は大体分かったわ。しかし、そんな食べっぷりで日本一周なんて片腹痛しよ。
お金もないなら、うちでウェイターのバイトしていきなさい。その間にわたしがプライドをかけて、
健康な良く食べる子にしてあげるわ。
少なくともその白が黒くならなきゃ駄目ね。」
「はい・・・。有難いことです。よろしくお願いします。」
そうして、クラブこけしに初の男子こけしが採用された。
それから結構な月日が経つが、相変わらず行き倒れの食は細く、眼は白眼のままである。
まかないを全部食べ終わるまで、めし炊きに見張られている姿は、
給食を居残りで食べさせられている小学生の様で、みんな不憫がりつつも応援しているという。
つづく
行き倒れ
○渾名:行き倒れ(津軽系)
○工人:五十嵐嘉行
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こけしは基本、たこ坊主等一部のものを除き、女の子モチーフとのことですが、
五十嵐嘉行工人のこの間宮明太郎型のこけしも、どうにも女子には思えませんでした。
そしてこの表情や簡素な胴模様からは、虚弱感がにじみ出ています。
当初、写真などで見ても本当に意味不明なこけしだと思っていたのですが、
今はジワジワと来るものがあり、こけし集めとは不思議なものです。
しかしながら、今は給食を無理やり食べさせる風習は小学校にあるのでしょうか。
私のころは普通にあり、見ていて不憫でした。