ある日、クラブこけしを訪ねてきたこけしがいた。
「ごめんください。どなたかおいでかしら。」
それは半眼の神々しい、2頭身のどっしりとしたこけしで、その出で立ちから静かなオーラが放たれている。
対応に出たのは下駄番であった。(
と黒の2つの人格を持つ特異なこけし娘である。(第2話参照))
赤:「はいはーい、どちらさまかしら。」
黒:「まだ開店前よ、まったく・・・って、師匠!!」
「元気にやっているようですね。久しぶりに東京に来たので、弟子のあなたの様子を見に来たのです。守り神と下駄番
そう言う彼女は“守り神”と呼ばれている。下駄番もかつて箱根にこの人ありと言われた伝説の
こけしだが、彼女はさらにその師匠にあたる傑物である物腰は丁寧だが、その厳格教えと、
出で立ちも相まって、ある種神の域の存在として崇められ、そのように呼ばれている。
席につき、お茶を差し出す下駄番の手も大層緊張していた。
すみませんね、気を遣わせて。どうですか、お店のお役には立てていますか。
黒:「はい、師匠。日々精一杯の精進をしております。」
しかし、それを聞くや否や守り神の半眼がカッと見開く。
「嘘をつくでない!!黒!相変わらずドトールで買い出し中にサボっているな!
さっき店の外から見えたわ!赤もそそのかされおってからに!!

打って変わり、雷のように下駄番をしかりつけるのであった。
黒:「ヒィィ、すいません、すいません師匠。」
赤:「だからいつかこうなるってったじゃない!すいません師匠。」
そのとき、もっふんママがそこに割って入ってきた。
「まあまあ守り神さん。下駄番ちゃんはよくやってるもふよ。プロフェッショナルもふよ。」
「ママがそう言われるならこの場は納めましょう。しかし、私はしばしこちらにとどまり、
もう一度下駄番を鍛え直そうと思います。
それからというもの、下駄番のみならず、ゆさこをはじめとする、だらけ気味の娘達の指導にも
精を出し始めた守り神であった。
ある日、やきもきした下駄番が守り神におずおずと尋ねる。
「あの、師匠。師匠はいつ帰られるのですか。結構な長逗留ですが。」
「・・・・・・ここに当分います。
「は!?」
「ここが気に入りました。私のやることも沢山ありそうです。」
現場を離れて久しく、ただ崇められることに寂しさを感じていた守り神だったのである。
なんだか嬉しそうにしている守り神を、放心状態で見つめる下駄番であった。
つづく
守り神
渾名:守り神(蔵王高湯系)
○工人:石山和夫
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石山こけし店にて、理想の顔立ちの半眼こけしがそこに無く、
新たにお願い出来ないものか、石山和夫工人に伺ったところ、
最近はもうこけしをあまり挽いていないとのとでした。
がっかりしていると、昔に挽いたというこの頭だけを石山工人が持ってきて下さいました。
この顔です!とお伝えすると、なんと、山寺観光をしている間に、
胴を有合わせの木で挽いてつけて下さったのです。
そのアンバランスさに工人は「うまくいかなかった」と言われましたが、
全くそんな風には思わず、ありがたく頂きました。しかも無料で!
胴をつけてもらい陽の目を見たこのこけしと、
物語中、再び居場所を見つけた守り神が
ラップしている話でした。